御茶ノ水の駅を降りて、その近くにギリシア正教の教会がある。その教会のドームはギリシア正教特有の丸まった形のドームである。

藤山一郎は『ニコライの鐘』という曲を歌っている。この曲を聴くと、この界隈を歩いた頃を思い出す。昔、ニコライ堂の横の坂道を歩いたりした。ニコライ堂の中には入らなかったが、あの特徴ある形のドームは遠くからでも見えた。

今は、東京は高いビルが乱立して、空が見えなくなってきている。冒頭の「青い空さえ、小さな谷間」という歌詞から判断すると、昭和27年のその頃から、高いビルが建ち始めて、空が見えなくなってきたようだ。

この歌は、藤山一郎向きの歌である。彼は背筋をまっすぐ伸ばして口を大きく開けて堂々と歌う。戦後の焼け跡の時代にはなぜか名曲が多い。人々の心の癒やしになった曲ばかりである。

このあたりのことを考えると、自分の過去の思い出がいくつか現れる。

一番古い思い出は、自分が中学生の頃だ。父親に神田の古本屋街に連れて行ってもらった。誰かにそこには、いろいろな本がたくさんあるという話を教えてもらい、父親にねだって連れて行ってもらった。その頃の神田には、まだ路面電車が走っていた。その日は、2冊ほど中学生向けの本を買ってもらった。

次は、自分が大学生の頃、神田の界隈、特に古本屋街はよく歩いて、安本を探していた頃を思い出す。本だけ出なくて、レコードもたくさん売っていた。クラシックの盤ならば、デスク・ユニオンという店があり、そこで何枚か外国からの輸入盤を購入した。そんなことも懐かしい。その頃は、古本屋街をうろつき回るのが好きだった。大学の授業はあまりなじめず、時間つぶしにその当たりを動き回ったのだ。

さて、昨年だが、懐かしさのあまり、神田界隈を訪ねたことがあった。古本屋の多くは廃業となっていて、モダーンな服の専門店などになっていた。たしかに、最近は人々は本は買わない。自分も本は買わなくなった。それは、ネットでかなりの情報が得られるし、買うとしても、電子書籍 Kindle でダウンロードすることが多くなったからだ。

少子高齢化の時代、学生の数が減ってきている。本を買う学生の数も減ってきている。このことも影響しているだろう。古本街はこれからますます廃れていくようである。古本屋街には強い逆風が吹いている。昭和の懐かしい風景が少しずつ消えていくのは寂しい。これも時代の趨勢か。