藤山一郎は品のいい歌い方をする人だと思う。イメージとして、温和で人に好かれるタイプではないかと思う。背筋をまっすぐ伸ばして、口を大きく開けて歌う。正統派の歌い手だ。
藤山一郎の歌がはやったのは、自分が生まれる前である。戦前から戦後間もない時期だ。父や母が好んで聴いていた。テレビに藤山一郎が登場すると両親が「いい曲だ、いい曲だ」と言いながら、一生懸命聴いていたのを思い出す。彼の歌では、『青い山脈』がなんと言ってもいい。戦後の廃墟の中から立ち上がろうとしていた日本人、その時代でもやはり青春があって、若い人々は将来を夢みていたのだ。
藤山一郎には、その他にも『長崎の鐘』、『夢淡き東京』、『青い背広で』などの名曲がある。昨晩は、焼酎を飲みながら、YouTubeで古い懐メロを聴いて楽しんでいた。
ところで、この当時は「東京」という名前がついた曲が多かった。夢淡き東京、東京行進曲、東京ラプソディー、東京の花売り娘、東京のバスガール、などである。自分は大学は東京の方に通ったので、東京にあこがれる人の気持ちがわかる気がする。
自分が東京に初めて来たときは、何か、素晴らしいことが起こりそうな気がしていた。素晴らしい恋人でも見つかりそうな気がしていた。でも、何もそんなことは起こらなかった。それでちょっと拍子抜けしたのだが。
そして、就職も東京の会社だった。しかし、それからは、満員電車がつらかったことや上司から怒られた思い出ばかりで、卒業後の東京は今振り返るとあまり楽しくはなかった。でも、東京に来るまでは、何がありそうな予感を感じていた。
地方に住んでいる人が、東京には夢や自分を変えてくれる大イベントが待っている気がする、と感じるのはわかる気がする。
40年前に東京に住んでいたので、時々上京するたびに、東京駅の周辺などを散歩する。東京もかなり変わったように思う。垢抜けしてきた。おしゃれな店が増えた。それから外国人の数が増えた。世界の東京となってきている。今に、世界中の人が、Tokyo, Oh! Wonderful Tokyo! というような歌を歌い、東京への憧れを表すかもしれない。その時は、この藤山一郎の『夢淡き東京』とか、この『青い山脈』なども、世界中で歌われるようになるかもしれない。