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自分はもう70歳になってしまった。少年の頃は、自分がまさか70歳になる日が来るとは想像することもできなかった。小学5年生の頃、道を歩いていたら、突然、自分がいつの日にか老いて死ぬんだということを実感して恐怖に駆られたことを覚えている。それまでは、死の存在を知らなかったのに、突然、人間は老いて死ぬのだということが分かって恐ろしくなったのだ。
それから、60年ほどが経過した。いつも自分の残りの年月はあとどれくらいかということを意識している。自分の手の甲を見ると、シワだらけである。少年の頃、祖父の手の甲を見て、ちょっと触ってみたことを覚えている。あの祖父の年齢に達したことをしみじみと痛感する。
若い頃に戻りたいとは思わない。今までの人生は結構ラッキーなことが続いたので、再度若くなっても、同じようにラッキーなことが続くとは考えにくい。大学入試もラッキーだった。数日前にといた数学の問題、全く同じ問題ができて、すぐに解答できた。余った時間で他の問題をじっくりと解いていった。あの数学の問題が出なかったら、おそらく大学入試は失敗していただろうと思っている。
就職も思いがけなくいいところに行けた。父が昇進してコネがもっとも効くときに、ある就職先を紹介してもらった。そこをきっかけに実績を積んで転職して、今でも嘱託としてだが、まだ働いている。いまだに働けるのは、その就職先で働けたことがきっかけだ。
あとは、いくつかのラッキーなことが続いた。二人の子供たちも現役で有名大学に入学した。授業料の負担も軽かった。そして社会人となってから、何とかうまくやっている。
自分の現状の問題は、お金がないことだが、健康で働き続けることができれば、何とか生きていけるだろう。人様から借りた借金やローンがあるが、少しずつ返していっている。
そんな日々だが、やはり死のことは意識している。今は、最後から2つ目のステージにいると思う。このステージにいれば、仕事があるので余計なことは考えなくて済む。死を忘れることができる。でも、完全リタイアしたら、そうすると最後のステージに移るのだ。すると、もう死を迎えることしかなくなる。死の準備だけになるのだ。最期を迎えるというのはどんな感じかな。願わくはピンコロで逝きたいのだが、どうかな。