本屋に行って、何気なくいくつかの雑誌を手にとって眺めていた。『オール読物』という月刊誌を手に取ってみた。いろいろな短編が中に詰まっている。暇つぶしにいいな、と感じた。値段は消費税を含めて1000円である。

単行本を購入してその本が詰まらなかったら、お金が全く無駄になるが、このように、550ページほどの雑誌に文字が三段に組まれていて、最新の短編がたくさん掲載されている雑誌ならば長時間楽しめそうだ。

おなじく、文藝春秋社の『週刊文春』は薄いページで400円で、内容もゴシップ記事が多い。時代の最先端で何が生まれているかを報道することもあるが、芸能人の不倫など読者向けの記事も多い。

『オール読物』ならば、たくさんの短編があって、それぞれにしんみりとした気持ちにさせる内容が多い。9月号は第155回直木賞が発表されて、その作家の受賞作が発表されるのだ。萩原浩という受賞作家の『海の見える理髪店』という短編集であり、この雑誌に掲載されているのは3編である。まあ、読んで損はなかったという感じの短編である。

あと、選考委員の方の各候補作への感想が述べられている。プロの人々の筆は冴えるなと感心した。上手なコメントだなと思った。とにかく、文で生計を立てているプロの方々であるので当たり前か。

自分は今まで読んだ中で一番すごいなと感じたのは、松本清張の「或る『小倉日記』伝」である。主人公の田上耕作の生き方に共感するとともに、こんな小説をゆっくりと静かに読んで人生を送りたい、と感じた。

むかし、自分が30代の頃、この小説を20代の知的な感じの知人の女性に勧めたら、数日したら「あんまり面白くない」との感想が戻ってきた。自分が驚いたのは、「この小説を読んで面白くないと感じる人がいるんだ」という事実だった。どんな本でも全員が感動するのではないようだ。

さて、自分の年齢になると、萩原浩氏の書かれたような短編集を次から次と読んでみたい。それも、短い一編だけを読んで、しばらくじっと考え事をしたり、散歩したりして、内容が頭に染み渡るようにしたい。そして、また次の短編を読むのだ。

後数年で完全退職となるのだが、語りの巧い小説家の短編集で文字が大きな版を購入してゆっくりと読んでみたい気がする。

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