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図書館で葛西善蔵というあまり聞きなれない作家の小説集『葛西善蔵』(1998年刊、日本図書センター)を読んでみた。読んで憂鬱になるというのはこの小説である。この人の私小説であり、自分の身辺を露骨に正直に書いてある。「浮浪」とか「子をつれて」などは本当に読むのが苦しくなる。

要はこんな話だ。売れない作家が、しかも原稿を一向に書こうともしない。やっと書いた原稿を、時々出版社に持ち込み、少しの原稿料をもらう。それを故郷の家族に送ることもせずに、酒を飲んで使ってしまう。金がないので、友人や知人に無心して、それで嫌がられる。旅館に金がないのに泊まり、羽織や万年筆を質入れして若干の金を作る。

そんな話ばっかりだ。自分の実話体験を細かく書いてゆく。憂鬱になる。恐ろしいほどの貧乏で、かと言って原稿をたくさん書くこともしない。数枚書いては、書けない書けないと言って破り捨てては、また書き直す。そして、酒を夜遅くまで飲んでいる。故郷からの手紙は、子供たちが学用品のお金を送ってくれとか、奥さんからの金がなくて困ったとの内容ばかりだ。そんな手紙を読む葛西善蔵は自己嫌悪に陥り、それを忘れるためにさらに飲んでゆく。

とにかく、心を打つ小説であることは間違いない。いや、呆れるかもしれない。戦前の日本は皆こんなものだったのか。いやこの作家独特の生活スタイルだろう。破滅志向の作家の私生活はちょっと面白い。

自分は今、金詰りだ。貯金がなくなりつつある。年金と嘱託の仕事で、なんとかある程度の金を工面できるが、息子二人の大学の学費と教科書代などで飛んでゆく。自分は老後破産へまっしぐらだが、葛西善蔵と比べるとまだましかなと思う。要は、自分よりも下の生活をしている人間を見ていると、ちょっと安心しているのだ。

友人とこの前、話していたら、友人は給料がかなり上がったという話をしていた。自分はニコニコして「よかった、よかった」と言っていたが、内心は、面白くない、と思った。嫉妬心とまではいかないが、人の景気のいい話は耳を遮断したくなる。

葛西善蔵を読んでいると、こうなってはいけない、と強く自分が思う。「酒は飲むな、生産性を挙げろ、手堅い仕事をしろ」と自分に言い聞かせる。葛西善蔵などは老後破産までにも達しない、41歳で亡くなったのだ。「こんな生活をするな」という意味では読んで有益な小説である。