自分は60代の後半に達しようとする年齢だ。高齢者である。老人ホームでも入居する条件は65歳以上である。その意味では、自分は十分に老人ホームに入る資格がある。

ただ、幸いなことにまだ健康である。そして嘱託だが仕事も持っている。ただ、晩婚だったので、子供の一人はまだ大学生だ。仕送りをしなければならない。自分は働きながら、都会で大学に通っている次男に仕送りをしている。

自分が介護をしてもらえるだろうか心配になる。本当は突然死が良いのだが、脳梗塞などで体が不自由になり、家族に介護してもらう、のは考えただけで気が滅入る。それならば、やはり金で解決してもらう方法、つまり、老人ホームや介護療養型医療施設で専門のスタッフに介護してもらいたい。

ただ、そのお金がない。そのような施設は月で10~20万円ほどのお金が必要だ。自分の現在の年金では、一応賄うことができるとしても、それでは、家内の生活費がなくなってしまう。

私がもしも突然死したとすれば家内は介護の心配をしなくていいのだ。でも、その後、家内が年老いたときに、そのような施設に入って介護をしてもらうだけのお金はあるのか。遺族年金がつくとしても施設に入るだけの十分なお金があるかどうか心配である。

息子や息子たちの嫁に介護してもらうのは心理的に無理である。オムツを替えてもらうなど、息子も嫁も嫌であろうし、こちらも嫌である。

私の親のことを思い出す。父親は突然死だった。クモ膜下出血で、午前は元気に車の運転をしていたが、夕方に倒れてそのまま息を引き取った。介護の必要はなかった。

父が亡くなってから数年後のことだ。母は体が弱って自分で始末できなくなって、同居するようになった。母の面倒をみるのは主に自分が担当した。毎日数回オムツを替えていたが、時々はオムツがずれて、シーツに汚物が流れることがあった。掃除をしたり、母をお風呂に入れたりと大変であった。

どうにもならなくなって、施設を考えた。どこの施設もいっぱいであったが、大阪は施設が多くて過当競争であると聞いて、大阪の有料老人ホームを見つけた。月に25万円ほどかかる施設だった。だが、母の遺族年金と国民年金が月で20万円ぐらいあったので、プラス私の給料から5万円ほど加算して、母を施設に預けた。それでいっぺんに私の生活は改善した。

母の介護で毎日忙しい。家内も手伝ってくれたが、オムツなどの替えは実子である私が担当した。いくら自分の親でも、大便などの始末は辛かった。

自分の若い頃は、ポットントイレで大便などを見たりする機会も多かった。その意味では大便などになれている。しかし、自分の息子たちは快適で清潔な洋式トイレに慣れていて、トイレがちょっとでも汚れていると大騒ぎをしていた。息子たちは学校ではトイレに行けないと言っていた。そんな息子たちが私や家内のオムツを替えることが出来るか、大いに疑問である。

自分たちの番の時は、やはり専門的なスタッフの揃っている施設で見てもらいたい。母の時は、年金が20万近くあったので何とかなったが、これが母の年金がほとんどない状態ならば、私が面倒をみるとして、そしてその状態が悪化していくならば、母に対してとても優しい気持ちになれなかったろう。

自分や家内が介護を必要とする状態になるのは、そんな遠い未来ではない。その時には、施設に入って、金銭的にも息子たちには迷惑をかけたくない。しかし、施設にはいるだけのお金をどうやって見出したらいいのか。

どう考えても、名案が浮かばない。困ったことだ。