2016-05-24

夜中だが、カエルが鳴いていた。このところ、田植えが始まった。田んぼに水が張られて今まで地中の奥深く隠れていたカエルたちが表面に出てきたのだ。カエルたちが真っ先に行うことは、卵を産むことである。

カエルのオスが鳴いているのである。メスたちはそれを聞いて気に入ったオスのところに行く。カエルの鳴き声は求愛の歌なのである。ただ、夜中でも鳴くことで外敵に見つかる可能性がある。ましては、昼間に鳴くことは非常に危険である。さらに求愛活動がうまくいったとしても、田んぼの真ん中で真っ昼間にオスとメスが無防備に生殖行動をしていたら、サギあたりが飛んできて、たちまち捕食されてしまう。夜が一番安全なのである。

伊勢物語を思い出した。伊勢物語は在原業平の求愛の歌を中心とした物語である。在原業平は様々な女性に恋の歌を贈る。はじめの初冠の段からロマンティックである。業平は「かすが野の若紫のすり衣しのぶのみだれ限り知られず」という歌をある姉妹に送る。その意味は、「春日野に生える若紫草の根ですった狩衣の模様が乱れているように、(あなたを思うわたくしの)心は乱れて限りしれません。」

さて、人間の世界では、オスだけでなくて、メスも鳴くのである。伊勢物語では、業平の求愛の歌に対して、女性も上手に返歌する。たとえば、筒井筒の段では、男のさりげない求愛の歌の対して、「比べ来こし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずして誰たれか上ぐべき」(あなたと長さを比べ合ってきた私の振り分け髪も肩を過ぎてしまいました。あなたでなくて誰がこの私の髪を結い上げるでしょうか、あなた以外にはいません)などと上手に返している。

人間の世界の特徴は男と女の語り合い、双方向の交渉である。オスだけが鳴くカエルの世界と異なり、女性も上手に鳴くことである。

さて、最近話題になったのは、ベッキーと川谷絵音の恋物語である。この二人は鳴き方が上手でなかった。外敵に容易にかぎつけられる鳴き方をしていたのだ。無防備に求愛活動をしていたのだ。そしたら、文春というサギが飛んできて、二匹を発見して、捕食してしまった。文春というサギは満腹感一杯の大変おいしい思いをしたのだ。(編集部ではボーナスが出たのか?)

さて、外はちょっと明るくなった。もうカエルの鳴き声はあまりしない。何組かのカエルのカップルが誕生したのだろう。さて、カップルが誕生したならば、数日後にはオタマジャクシが泳いでいるだろう。

田んぼは9月頃には収穫となる。田んぼに水が張られている期間は短い。その間にカエルは恋をして、卵を産む。生まれた卵はオタマジャクシとなり、成長したら、稲の収穫の前に、地中の奥深いところに潜るのだ。そして次の田植えの季節を待たなければならない。なるほど、カエルが一生懸命求愛に鳴く理由が分かった。たしかに忙しいな、と思う。まあ、人間も時間にそんなに余裕があるわけでない。恋愛をするなら、急げ。

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