限界集落に戻った男性
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私の故郷はすでに限界集落のようである。まだ鉄道が通っているが、その地域の衰えは目を覆うばかりである。だが、30年ぐらい前はまだ活気があった。

私の親戚に一人の男がいる。駅近くの栄えている店の長男であった。頭も良くて、地元の進学校に行き、東京の有名私大で学んだ。そして、東京の会社で働き、それなりに充実した生活をしていた。

しかし、親は年老いてくるにつれて自分の将来が心配になったのか、長男に対して、「故郷に戻り、自分の店を継ぐように」と説得した。その頃は田舎もまだ栄えていて、商売を引き継いでも十分に生きていけると計算したのだろう。彼は親の要望に応じて、店を継いだのだ。

初めは順調であった。地元の女性と結婚をして子供が一人生まれた。しかし、過疎化が徐々に進んでいく。店の売り上げが落ちてくる。駅を利用する人が減って、駅の近くの店も寂れてゆく。この頃から店の資金繰りが苦しくなって親戚中に借金を申し込みようになる。

私の父にも頻繁に借金の申し込みをしてくるようになった。私の父は数十万円を貸したのだ。結局その金は返してもらえなかった。借金の申し込みをするばかりだと、親戚や友人から嫌われて、避けられるようになる。「蛇蝎のように嫌われる」という諺があるが、まさにその通りだった。

夫婦の中もおかしくなり、やがては離婚した。しかし、これは借金の負担が子供や妻に及ばないようにするための偽装離婚だという噂もある。

その男の父が亡くなったことをキッカケに、店をたたんで、隣町に移住してひっそりと暮らしている。パートの仕事をしているが、給料はかなり少ないと聞く。東京の有名私大で学んだことを全くの無駄になってしまった。

親戚のその男とは私が小学生のころは一緒に遊んだものだった。陽気で楽しい男性であった。しかし、借金と資金調達の苦労が彼の性格を変えてしまった。だんだんと、ふさぎがちで常に何かに怯えているような性格になってしまった。

これは、結局は、彼と彼の父が田舎の将来を読み間違えたからだと思う。限界集落のようになるとは全く予想できなかったのか。その頃から、出生率の低下は予想されていた。すると、真っ先に影響を受けるのは田舎である。などど、後から考えれば、「そうかな」と思うが、その当時は予想することは全くできなかった。

今は、彼のお店は雨戸も締め切り誰も住んでいないようだ。店は売ろうにも貸そうにも誰も関心を示さないだろう。固定資産税を払うだけのトランプのババ抜きゲームである。

私は、自分の故郷がそのように衰えてゆくのを見るのは寂しい限りだ。全てが廃墟となって、高齢者だけがパラパラと見えるそんな状態、これは近い将来、日本全体の姿になるのではないか。東京も例外ではないかもしれない。